文書作成日:2021/01/20

今回は相談事例を通じて、自筆証書遺言検認前の遺産分割協議の可否についてご紹介します。
父が自筆証書遺言を残して亡くなりました。相続人は、母と私(息子)の2人です。現在、家庭裁判所に自筆証書遺言の検認を申し立てていますが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、少し先になってしまう見通しです。
そこで、検認を受ける前に母と私で遺産分割協議を成立させ、不動産の相続登記や銀行の預金口座の引き出し等を進めたいと考えているのですが、可能でしょうか。
被相続人が遺言書を作成していても、問題となる場合を除き、相続人全員が、その遺言書の内容を承知した上で、相続人全員が関与して、その遺言書と異なる内容の遺産分割協議を成立させることは可能であり、成立した遺産分割協議は有効であると解釈されています。この「問題となる場合」がどのような場合なのかは、詳細解説にてご確認ください。
問題となるのは次の場合です。
- 1)被相続人の遺言書で、遺言執行者が指定され、当該執行者が就任を承諾している場合
ご相談では、遺言書は検認手続中とのことですので、仮に遺言執行者が指定されていても、未だ就任は承諾していないと思われますが、遺言書と異なる遺産分割をするのであれば、念のため当該執行者の了解を得る必要があるかと思われます。
- 2)被相続人の遺言書で、相続人以外の人に遺贈がなされている場合
問題は、包括遺贈の場合で、民法には、「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」(第990条)と規定されており、従って、包括受遺者の遺贈の放棄には民法第915条1項が適用され、「3ヶ月以内」の要件が課されますので、放棄を求める場合は、ご注意下さい。
上記のような問題となる事項の含まれていない遺言書であれば、ご質問の場合、ご質問者とお母さまの2人で遺産分割協議書を作成すれば、相続登記も預金の引き出しも可能かと思われ、特に問題となる点は思いつきません。
なお、遺産分割協議書を作成するとしましても、遺言書の検認手続は進められた方がよろしいかと存じます(検認手続を採らないと過料の制裁があります。民法第1005条)。
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。
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